カジュアル・楽しむ着物
将軍の美学を纏う:最高級織物「御召(おめし)」の歴史と真髄
日本の伝統的な装束、「お召(おめし)」は、時の最高権力者である将軍が「お召しになった」ことに由来します。
今回は、その華麗なる歴史的背景から、技術の粋を極めた現代の逸品までを詳しく紐解きます。

1. 「お召」の誕生:11代将軍・家斉が愛した究極のファッション
お召の歴史を語る上で欠かせないのが、江戸幕府第11代将軍、徳川家斉です。
家斉は、正室以外に40人もの側室を持ち、55人の子供をもうけたという、江戸幕府きっての「色男」として有名です。彼がそれほどまでにモテた理由は、単に地位があったからだけではありません。彼は類まれなる審美眼を持ち、ファッションにも並々ならぬこだわりを持っていたからだと言われています。
その家斉が、自身の「御止め柄(専用の柄)」として作らせ、日常の正装として愛用したのが、この「お召」です。将軍が愛用したことで、お召は他の織物とは一線を画す「別格」の地位を確立しました。
〇江戸城への参内と格式
「お召」は単なる高級品ではなく、大名や旗本にとっても公式な「参内着(さんないぎ)」として正式に認められていました。
・家斉の功績: 11代将軍家斉が好んでお召しを着用したことで、それが幕府の「公認」の装いとなりました。
・格式: 江戸時代、武士が城へ上がる際の服装(登城着)には厳格なルールがありましたが、お召しは「縮緬(ちりめん)」よりもコシが強く、シワになりにくいため、長時間の登城や儀式に耐えうる「実用的な正装」として重宝されました。
・ステータス: 将軍と同じ種類の生地を纏うことは、大名たちにとっても名誉であり、その格式は「紬(つむぎ)」よりも一段高く設定されていました。凛とした立ち姿を保てるお召は、まさに武士の矜持を支える勝負服だったのです。
2. 織田信長と「堺」:技術の源流を求めて

お召の「織り」のルーツを辿ると、江戸時代をさらに遡り、戦国時代の巨星・織田信長の時代に突き当たります。
天正年間(1573〜92年)、明(中国)から大阪・堺へと、緯糸(よこいと)に強い撚(よ)りをかける「縮緬」の技法が伝わりました。当時の堺は世界でも有数の貿易都市。信長は新しいもの好きで、この新しい技術が生み出す、独特の質感と上品な光沢をいち早く見出し、貴族や武将、豪商たちがこぞって愛用するようになりました。
この「堺で生まれた強撚糸の技術」が京都・西陣へと伝わり、長い年月をかけて洗練され、江戸時代後期に「お召」という最高峰のブランドへと結実したのです。
3. 「お召」と「江戸小紋」:競い合いから生まれた二つの美
お召とよく比較されるのが「江戸小紋」です。この二つは、江戸時代における武士の美意識を象徴していますが、その成り立ちは対照的です。
「技の江戸小紋、権威のお召」
〇 江戸小紋(染め):「大名のアイデンティティ」
大名たちが参勤交代で江戸に集まり、自藩の「裃(かみしも)」の柄の細かさを競い合ったことから発展しました。自分の雇っている職人の技術を見せびらかし、他藩を圧倒するための「技の競い合い」横の競争から生まれたのが江戸小紋です。歴史的には、江戸初期から確立されていた「糊と型紙」による防染技術がベースとなっています。
〇 お召(織り):「将軍による究極のブランド化」
一方で、お召は「将軍が認めた最高級品」という、いわばピラミッドの頂点から生まれた格式です。染め(後染め)の江戸小紋に対し、織り(先染め)のお召は、糸そのものの質と織り組織の堅牢さが命です。将軍が認めたという「縦の権威」によって、一つの独立したジャンル(お召しという名称そのもの)として完成されたと言えます。
*歴史的な前後関係
技術の順序としては、戦国時代からの「武士の記号」であった江戸小紋(の原型)が先にあり、その後、元禄文化の華やかさの中で京友禅(多色染め)が流行し、町人文化が花開きました。そして江戸後期に、それら全ての美意識を統合する形で、最高権力者の装いとしての「お召」が完成したと言えます。
4. 科学が証明する「お召糸」の魔法
お召を他の織物から隔絶させているのは、その「糸」の驚異的な強さにあります。

〇 強撚糸(きょうねんし)の基準
一般的な強撚糸と、本物のお召に使われる「お召糸」では、撚りの回数が全く違います。
・一般的な強撚糸: 1メートルあたり約1,000回〜1,500回の撚り。
・お召糸: 1メートルあたり2,000回〜3,000回もの撚りをかけます。
この猛烈な撚りをかけた糸を、右撚り(S撚り)と左撚り(Z撚り)で交互に織り込みます。そして織り上がった後に、職人がお湯の中でもみ込む「湯もみ(シボ出し)」を行うことで、糸が元に戻ろうとする力が働き、表面に独特の「シボ(凸凹)」が生まれます。
このシボが空気の層を作り、さらりとした肌触りと、絹特有の優しい光沢を生み出すのです。
5. 西陣の至宝「宮階織物」:しなやかさの極致
お召は現在、西陣(京都)の他にも各地で織られていますが、私たちが今回ご紹介する宮階織物さんのお召は、その中でも格別の品質を誇ります。
〇「バリバリ」と「しなやか」の違い
安価なお召や、技術力の低いメーカーのものは、生地が非常に硬く「バリバリ」とした硬い質感になりがちです。これを着ると、どれほど綺麗に着付けても襟元がぶかついて(浮いて)しまい、着姿がどこか重たくなってしまいます。
しかし、宮階織物さんのお召は驚くほど「軽く、柔らかく、しなやか」です。
その秘密は、以下のこだわりにあります。
・極細の原糸: 強撚に耐えうる限界まで細い糸を厳選。
絶妙な打ち込み: 織機を調整し、密度を高く保ちながらも、生地に呼吸をさせるような柔らかさを残す。
・職人の勘: 最後のシボ出し工程で、生地の個性に合わせた加減を見極める。
このしなやかさがあるからこそ、体に吸い付くようなフィット感が生まれ、着崩れせず、一日中楽に過ごすことができるのです。
6. お召の多様な表情:縫い取りから風通まで
お召はその織り方のバリエーションによって、日常の贅沢から格調高い席まで幅広く対応します。
・縫い取り御召(ぬいとりおめし):
地色とは別の糸で、刺繍のように柄を織り出したもの。その立体感と美しさは、紬にはない上品な「華」を添えてくれます。
・風通御召(ふうつうおめし):
二重組織で織られており、表裏で色が反転します。生地の間に空気を含むため、軽くて温かみがあり、しなやかな落ち感が特徴です。
※他にも多くの織技法があります
紬よりかわいく、訪問着より身近に
お召は、紬よりも光沢があり上品で、訪問着よりも現代の生活に馴染む。まさに「いいところへ着ていける、最高の万能選手」です。(御召の訪問着もあります)
結びに代えて
織田信長が見出し、徳川家斉が完成させた「お召」の歴史。それは、常に時代の最高峰を求める人々の情熱の歴史でもありました。
宮階織物さんのように、その伝統を正しく受け継ぎながら、現代の女性を最も美しく見せる「しなやかさ」を追求する作り手がいることは、私たちにとって大きな喜びです。
さらりとした着心地、優しい光沢、そして背筋が伸びるような歴史の重み。
あなたも、将軍が愛したその極上の風合いを、ぜひ肌で感じてみてください。
(文・山本千恵子)
こちらも参考に
*幸せを運ぶ西陣御召「お召ってこんなに自由でかわいいの!?」
👉 かわいいが止まらない新作・御召展
お問い合わせ
ご相談は
お気軽に
商品に関するお問い合わせ、
コーディネート相談、
ご購入の相談など、
お気軽にお問合せください。
お電話で
0585-22-0140
営業時間:9:00~18:00(水・木曜 定休日)
お問い合わせフォームお問合せフォーム
店舗紹介